初めまして。行政書士&法律行政専門ライターの大滝義雄です。
フリーランス向けのメディア、Freestyleで記事を書かせていただけることになりました。
今回のテーマは、「フリーランスと業務委託の違い」です。
私自身、フリーランスとしてライターの仕事を受けており、Webサイト制作会社と業務委託契約を結ぶことがよくあります。
それだけに業務委託契約については日頃から関心を持っていますし、フリーランスとして業務委託契約を結ぶ際の注意点も勉強しております。
今回の記事では、「フリーランスと業務委託の違い」を軸に、フリーランスとして業務委託契約を結ぶ際の注意点などにも触れたいと思います。
私と同じように、フリーランスとして働いている方はぜひ、参考にしてください。
フリーランスと業務委託の違い
「私はフリーランスで働いています」
「私は業務委託で働いています」
どちらも同じような意味になると考える方も多いと思いますが、フリーランスと業務委託は違います。
フリーランスは、働き方。業務委託は、契約内容を意味する用語です。
フリーランスとは、「個人事業主とも言われ会社などの法人に属せず、また、法人を設立せずに個人で仕事をする形態」の働き方のこと。
業務委託とは、契約内容のこと。
フリーランスとは
フリーランスとは、個人事業主とも言われ会社などの法人に属せず、また、法人を設立せずに個人で仕事をする形態を指します。
最近では、フリーランスで働く方が増えていますが、フリーランス自体は新しい働き方ではなく、古くからある働き方の一つです。
例えば、弁護士などの士業が弁護士法人ではなく個人事務所を構えて仕事をしていれば、フリーランスと言えます。また、デザイナー、イラストレーター、漫画家、ライター、作家などが自分で会社を設立せず、個人で仕事をしていれば、フリーランスになります。
いずれの仕事でも、クライアント(発注者)から案件ごとに仕事を受けて、成果物やサービスを提供し、報酬をもらう形になります。
フリーランスはクライアントと契約を交わして仕事をする
フリーランスで働く個人がクライアントから仕事を受ける際には、クライアントとの間で仕事内容についての契約を締結します。
契約と言うと、契約書と言う形で文書を交わすものだけを意味するとイメージするかもしれませんが、契約自体は口約束だけでも成立します。
例えば、クライアントがデザイナーに年賀状の絵を描いてと依頼して、
「はい、引き受けました。報酬は1万円いただきます」
「じゃあ、12月半ばまでによろしく」
電話でこの会話を交わしただけでも契約自体は成立していることになります。メールなら、なおさら、文章で契約が成立していることを確認できます。
しかし、この口約束だけでは、お互いの認識が一致していないとトラブルになりかねません。
報酬は1万円と言っても、この口約束ではいつ支払うのかで、両者の間で一致していませんから、デザイナーが納品と同時に支払いを求めると言う認識なのに、クライアント側は支払いはずっと後でいいと言う認識でいるかもしれません。
そのようなお互いの認識の食い違いを避けるために、契約書と言う形で文書を交わすのが一般的になっています。
フリーランスが結ぶ契約の代表例が業務委託契約である
フリーランスと業務委託の違いの本題に入ります。
フリーランスはクライアントとの間で様々な形の契約を結ぶわけですが、この中でも代表的なのが「業務委託契約」です。
つまり、フリーランスは、働き方や職業を意味する用語であるのに対して、業務委託はフリーランスがクライアントとの間で交わす契約を意味していると言うことです。
業務委託契約は、個人であるフリーランスとクライアントだけの間で締結するとは限りません。
例えば、受託者側が個人ではなく、デザイン制作を専門とする会社である場合も、業務委託契約が締結されることもあります。
業務委託と雇用契約との違い
フリーランスと業務委託の違いに関連する話をもう少し掘り下げてみましょう。
業務委託と雇用契約はどう違うのでしょうか?
業務委託とは、例えば、フリーランスに仕事を依頼し、クライアントが報酬を支払うと言う契約形態です。
クライアントは、フリーランスに対して、納期や品質などの「要望」を出すことはできますが、フリーランス側がそれは難しいと拒否した場合は、強制はできません。
もちろん、クライアントの事務所に出向いて仕事をしてほしいとか、何時から何時まで仕事をしてほしいと言ったような拘束をすることも基本的にできません。
つまり、クライアントは成果物の納品などを求められるだけで、フリーランスの仕事のやり方には口出しできない形態と言うことになります。
それに対して、雇用契約では、雇い主が従業員に対して、就業時間などを設定した上で拘束し、いつまでに仕事を仕上げるように「命令(指揮命令)」することができます。成果物を仕上げるだけでなく、その仕事の過程についてもいちいち口出しできるわけです。
雇用契約のタイプとしては、正社員の雇用契約が代表例ですが、期間社員、アルバイトなども含みます。フリーランスとアルバイトも混同されがちですが、アルバイトで働く場合は、フリーランスとは言えないことに注意しましょう。
業務委託:クライアントは委託者に対して、成果物の納品を求めることができるが、仕事の過程には口出せない。
雇用契約:雇い主は従業員に対して、成果物の納品を求めることができて、仕事の過程にも口出せる。
フリーランスと業務委託契約を締結することのメリットとデメリット
クライアントにとって、フリーランスと業務委託契約を締結することにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
フリーランスと業務委託契約を締結することのメリット
業務委託契約の場合、クライアントはフリーランスを雇用することはできませんが、従業員の雇用に際してかかる様々なコストを負担する必要がないというメリットがあります。例えば次のようなコストです。
- 賃金
- 社会保険
- 解雇(契約解除)に制約がない
賃金
最低賃金の適用がないため、最低賃金以下の報酬を設定しても問題ない。また、残業代も支払う必要がない。
社会保険
従業員を雇うと、雇い主は社会保険を負担しなければなりませんが、フリーランスに業務委託すればその負担の必要がありません。
解雇(契約解除)に制約がない
従業員を解雇するためには、労働関係法に基づく一定の手順を踏まなければならず、簡単ではありませんが、フリーランスとの業務委託契約は、解雇と比べれば契約解除が容易です。
フリーランスと業務委託契約を締結することのデメリット
業務委託契約の場合、クライアントはフリーランスを雇用できないためのデメリットもあります。
仕事をしているのかどうか分かりにくい
フリーランスの仕事の過程をリアルタイムに確認できるとは限らないため、クライアントからは仕事をしているのかどうか分かりにくい点がデメリットです。
もっとも、その都度、報告を求めることはできます。
本人が仕事をしているとは限らない
クライアントとしては、フリーランスの個性や能力に注目して、この人に直接仕事してほしいと考えて業務を依頼することも多いと思いますが、フリーランス側は委託された本人が仕事をするとは限りません。
ただ、この点も業務委託契約書に、再委託の禁止などの規定を盛り込むことで克服することはできます。
ノウハウをクライアントが蓄積できない
フリーランスに委託した業務のノウハウをクライアント側で蓄積することができない点が最大のデメリットです。
フリーランスが業務をやめたり、仕事を断ったりした場合、代わりの人を探すのに苦労することもありますし、同じ品質を維持できなくなる可能性もあります。
フリーランスにとっての業務委託契約
業務委託は、クライアントにとってメリットがある一方で、フリーランスにはメリットがないように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
フリーランスにとっての業務委託契約のメリット
フリーランスが業務委託の形で働くことのメリットは、クライアントからの指揮命令を受けなくてよいこと。つまり、働く時間や働き方を自分で選べることです。
そのため、子育て中、介護中などで、労働時間の拘束を受けたくない方にとっては、働きやすい形態と言えます。
また、専門的な知識や経験、資格がある方は、会社員として働くよりも業務委託の形で働く方が、報酬を丸ごと自分の収入にでき、大きく稼げることもあります。
フリーランスにとっての業務委託契約のデメリット
業務委託契約の場合、自分で仕事を取らない限り、仕事が入ってこない点が最大のデメリットです。
また、スポットの契約が多い場合は、仕事が安定して入るとは限らず、収入が不安定になりやすい面もあります。
副業として業務委託契約を締結する人も増えている
最近では、副業を解禁する企業も増えており、副業として業務委託を受けて仕事をする人もいます。
本業とは別に収入を確保でき、隙間時間を有効に使えたり、スキルアップにつながると言ったメリットがあります。
また、個人事業主として、副業に必要な費用を経費に計上できる点も見逃せません。
業務委託を受けた場合は確定申告が必須
本業で業務委託を受けた場合はもちろん、副業でも、確定申告が必要になります。
副業の場合は、業務委託契約で得た所得が20万円を超える段階から確定申告が必要です。また、インボイス制度を利用している場合は、消費税の申告も忘れないようにしましょう。
フリーランスが結ぶ業務委託契約の内容
ここまでで、フリーランスと業務委託の違いをご理解いただけたと思います。ここからは、業務委託契約の内容を解説します。
フリーランスがクライアントと結ぶ業務委託契約の内容は、クライアントに提供する納品物やサービスの内容により大きく異なります。
ここでは主な項目のみを紹介します。
フリーランスが結ぶ業務委託契約の主な条項
フリーランスがクライアントと結ぶ業務委託契約の主な条項は次のとおりです。
- 業務内容
- 報酬
- 成果物の権利
- 再委託
- 秘密保持
- 契約解除(中途解約)
- 契約不適合責任
- 管轄裁判所・準拠法
- 反社会的勢力の排除
業務内容
クライアントがフリーランスに委託する業務内容のことです。
報酬
クライアントがフリーランスに支払う報酬のことです。算出方法や支払い時期などについても記載します。
成果物の権利
成果物が著作物であれば、著作権と著作者人格権の扱いをどうするのかについて決めます。その他の知的財産の扱いについても決めます。
再委託
フリーランスがクライアントから委託された業務を第三者に委託してよいのかどうかについて決めます。禁止することもできますし、一定の条件の下で認めることもできます。
秘密保持
クライアントとフリーランスの双方が業務上知り得た秘密や個人情報などを第三者に漏らさないと言う誓約です。また、秘密保持義務に反した場合の損害賠償請求の内容についても記載します。
契約解除(中途解約)
クライアントとフリーランスの双方が契約期間の途中で契約解除できる場合やその方法について決めます。
契約不適合責任
成果物の種類や品質が契約で決めた内容と異なる場合に、クライアント側から追完、報酬の減額、損害賠償、契約解除を請求できると言う定めです。
管轄裁判所・準拠法
業務委託契約に関するトラブルが起こった場合にどこの裁判所で裁判をするのかの定めです。国外のクライアントやフリーランスとの契約では、どの国の法律に従うのかも決めます。
反社会的勢力の排除
クライアントとフリーランスの双方が反社会的勢力と無関係であることを誓約する内容です。
フリーランスが業務委託契約する際の注意点
上記の業務委託契約の条項のうち、フリーランス側が特に注意したい条項を紹介します。
- 報酬が支払われるタイミング(報酬関係)
- 報酬の改定交渉ができるかどうか(報酬改定条項)
- 他社でも同じ内容の仕事をしてよいかどうか(競業禁止規定)
- 中途解約時に違約金を支払わなくてよいかどうか(違約金の定め)
報酬が支払われるタイミング(報酬関係)
報酬がどの時点で支払われるのかをよく確認しましょう。業務委託契約書を基本契約書と位置づけ、別途個別契約書を用意する場合は、具体的な内容は個別契約書に記載されていることが多いです。
報酬の改定交渉ができるかどうか(報酬改定条項)
業務委託契約は、フリーランスとクライアントが対等の立場で締結する契約なので、報酬に不満だとか、経済情勢の変化、租税法の改正により増額を求めたい場合は、交渉することができます。その条項が設けられているかどうかの確認が大切です。
他社でも同じ内容の仕事をしてよいかどうか(競業禁止規定)
委託された業務と同じ内容の業務を他の会社に提供してはならないと言った条項がないかの確認です。例えば次のような条項です。
この条項があると、クライアントに専属する形になり、他の仕事を受けることができなくなるため、注意が必要です。
中途解約時に違約金を支払わなくてよいかどうか(違約金の定め)
業務委託をフリーランス側から一方的に解除した場合に、違約金の支払いを求められるのかどうかと言う点です。一般的には、中途解約と言う項目に次のような条項が設けられます。
この条項がある場合は、業務委託契約書に定められた手順で中途解約した場合でも、○万円と言う金額の支払いを求められてしまうので注意が必要です。
業務委託契約の性質
フリーランスが締結することが多い業務委託契約とはどのような契約なのでしょうか?
一般的な契約の類型は、民法に定められていますが、業務委託契約は定められていません。民法が制定された明治時代では想定できなかった比較的新しいタイプの契約なのです。
業務委託契約は、請負契約や委任契約(準委任契約)と似た性質を有する契約で、企業の業務の一部を専門性の高い外部の企業に委託するため(アウトソーシング)の契約として考え出されました。
【混同されやすい契約】
- 請負契約
- 委任契約
- 準委任契約
- 労働者派遣契約
請負契約とは
請負契約は、クライアントから依頼された仕事を請け負った請負人に「仕事完成義務」がある契約です。
代表的なのが、建設会社が発注者の依頼により建物を建てる契約です。
建設会社は、自分で仕事をする必要はなく自由に下請に出すことができます。ただ、報酬は、建物を完成させない限りもらうことができないのが原則です。
委任契約(準委任契約)とは
委任契約は、委任者が受任者個人の能力を信頼して、契約締結などの法律行為を委任する契約です。
クライアントは受任者個人を信頼して仕事を任せる面があるため、受任者自身が仕事をするのが原則です。
ただ、受任者は、任された仕事について最善を尽くすだけでよく、仕事完成と言う成果を上げることができなかったとしても、報酬をもらうことができると言う性質があります。
委任契約と準委任契約の違い
委任契約は法律行為を委任する場合の契約です。代表例は、弁護士などの専門家に契約締結などの交渉を任せる場合です。
それに対して、準委任契約は、法律行為以外の事実行為を委託する場合の契約のことで、フリーランスが仕事を受ける場合のほとんどが該当します。
業務委託契約と請負契約、準委任契約の違い
業務委託契約と請負契約、準委任契約の違いは、実は明確ではありません。
一般的には、請負契約と準委任契約の双方の性質を併せ持っている場合が、業務委託契約と解することになります。
つまり、受託者には「仕事完成義務」があるし、再委託するのではなく「本人が仕事をする義務」があると言う内容だと業務委託契約になります。
ただ、契約書の表題が業務委託契約と書かれていても、内容が請負契約とほぼ同じなら、請負契約と解することになりますし、準委任契約と同じなら準委任契約と解します。
どの類型になるのかは、表題ではなく内容で判断されると言うことです。
業務委託契約と労働者派遣契約の違い
業務委託契約と混同されやすい契約として労働者派遣契約が挙げられますが、この二つの契約は明確に違います。
業務委託契約は、クライアントが受託者に対して指揮命令を行うことができません。
それに対して、労働者派遣契約は、派遣元から派遣された労働者に対して、クライアント(派遣先企業)が指揮命令を行うことができると言う内容になります。
業務委託契約:クライアントが受託者に対して指揮命令を行えない
労働者派遣契約:クライアント(派遣先企業)が労働者に対して指揮命令を行える
業務委託契約と偽装請負
業務委託契約、請負契約、委任契約(準委任契約)はいずれも、クライアントは仕事の成果を求めることができるだけで、受託者の仕事のやり方に関する細かい指示を出すことはできません。つまり、クライアントは受託者への指揮命令権を有していません。
こうした契約類型でありながら、クライアントが受託者へ指揮命令を行っている場合は、雇用契約や労働者派遣契約を潜脱するための「偽装請負」に該当することになります。
偽装請負と判断された場合、受託者側としては、雇用契約と同様の賃金や社会保険制度の適用を求めることができることになります。
フリーランスが業務委託契約と合わせて結ぶことがある契約
業務委託契約を締結する際は、業務委託契約一本だけでなく、個別の契約も合わせて締結することがあります。
業務委託の基本的な内容は、業務委託契約書に列記されていることがほとんどですが、個別具体的な内容について念押しするために、別途契約を結ぶ形になります。主な契約を紹介します。
- 個別契約
- 秘密保持契約
- SLA(サービスレベルアグリーメント)
- 細則
個別契約
業務委託契約書が取引の基本的なルールを定めたものである場合は、個別契約は、具体的な注文書の位置づけになります。成果物の詳細、納期、金額、支払い方法などが示されます。
秘密保持契約
業務委託契約書にも、秘密保持に関する条項が設けられることが多いですが、この条項がない場合や、より具体的な守秘義務を求めたい場合に締結されます。
SLA(サービスレベルアグリーメント)
サービス水準合意書とも言い、クライアント側が受託者に対して、成果物やサービスについて一定以上のレベルを求めたい場合に締結されます。
一定の水準を下回った場合は、報酬を減額すると言うような取り決めになります。IT系の業務で締結されることが多い契約です。
細則
クライアントは、受託者に指揮命令権を行使することはできませんが、仕事のやり方について一定の手順があり、その手順に従ってほしい場合に、細則の形で仕事のやり方を示すことがあります。
まとめ|フリーランスと業務委託の違いは理解できましたか?
フリーランスと業務委託の違いを説明しつつ、業務委託契約の内容や性質、フリーランス側から見た業務委託契約の注意点やメリット、デメリットを紹介しました。
業務委託契約と言うと難しいものだと思い込みがちですが、この記事をお読みいただければ、注意点も理解できたのではないでしょうか。
もちろん、クライアントが示した業務委託契約の条項でよく分からない項目があれば、クライアントに意味を説明してもらったり、弁護士などの専門家に相談して、注意点を指摘してもらうことも大切です。
この記事を参考に様々なクライアントと業務委託契約を締結し、フリーランスとしての働き方を充実させてください。